MCカートリッジ 20X2A レビュー by Chris Frankland
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The Earは、様々なオーディオ機器や音源を評価している英国の情報サイトです。以下訳文はThe Earの許可を受けて掲載しています。原文(英語)はThe Ear review of 20X2Aをご参照下さい。
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ダイナベクター 20X2A MCカートリッジ
他の業界で効果的に使用されている技術やプロセスをハイファイ機器に応用して製品の音質を向上させる事には、いつも驚かされます。その素晴らしい例として、日本のメーカーであるダイナベクターが採用する焼鈍(アニーリング)処理を挙げましょう。今回評価する20X2Aは、MCカートリッジの磁気回路を構成する純鉄製の部品に対し、ダイナベクター独自の特殊磁気焼鈍処理を行ったモデルです。
ダイナベクター社からこうした革新的な技術が生まれるのは、驚くべきことではありません。ダイナベクターは、東京大学工学博士、東京都立大学機械工学科元教授である富成襄博士によって1978年に設立され、初の高出力MCカートリッジ(MM入力に直接接続できるMCカートリッジ)である10Xを発表しました。今日でもダイナベクターは高出力MCカートリッジを製造しており、その中には20X2Aの高出力バージョンである20X2A-Hもラインナップしています。
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今回、私が試聴するのは低出力モデルの20X2A-Lです。
このMCカートリッジの基本的な構造は従来の20X2モデルとほぼ同じです、唯一の違いは、磁気回路を構成する純鉄製の部品(ポールピースとフロントヨーク、リアヨーク)に特殊磁気焼鈍が施され、金属の微細構造が改善されている点です。焼鈍(アニーリング)とは金属を加熱した後で冷却する処理の事で、金属の歪んだ結晶構造を復元し、磁気透過性を向上させると言われています。この処理は、いわゆる低温処理(クライオ処理)に似ています。ダイナベクターは、自社のカートリッジに最適な焼鈍プロセスを見つけるために、広範囲にわたる試験を実施しました。
焼鈍(アニーリング)処理によって金属は柔らかくなりますが、弱くなるわけではありません。ダイナベクターは焼鈍(アニーリング)処理によって金属がより柔軟になるとうたっています。実際、焼鈍(アニーリング)は多くの航空宇宙部品にも使用されており、この処理によって部品の脆さが軽減され、疲労に対する耐性が高まります。ダイナベクターは、純鉄製部品の結晶構造を復元する事により磁束の変動を減少させることができ、音質も大幅に向上すると述べています。
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ダイナベクターのMCカートリッジシリーズの中で、20X2Aは特殊磁気焼鈍が施された2つ目のモデルです。最初のモデルは、6月にレビューしたXX-2Aです。20X2Aの他の重要な特徴としては、オリジナルのXX1で初めて導入された「フラックスダンパー」と、「ソフト化マグネット」と呼ばれる技術があります。
「フラックスダンパー」はフロントヨークに閉じたコイルを巻く事で、カンチレバーの振動によって生じる磁束の乱れを安定させる役割を果たします。
「ソフト化マグネット」では、磁力を維持しながら磁気抵抗を低らすために磁石に高透磁率の素材を付加しています。ダイナベクターがこれを採用したのは、高出力の希土類磁石(20X2Aに使用されているネオジム磁石など)が非常に高い内部磁気抵抗を持っているため、磁束密度に大きな変動が生じ、音質に悪影響を与えると考えているからです。ダイナベクターのより高価なモデル(17DXを除く)では、ネオジム磁石の代わりにアルニコ磁石を採用しており、希土類磁石に関連する問題は発生しないと述べています。
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20X2Aは、アルミニウム製のボディと硬質アルミニウムパイプカンチレバー、マイクロリッジスタイラス、PCOCC内部配線を採用しており、出力レベルは0.3mV(高出力バージョンは2.8mV)です。自重は9.2gで、針圧は1.8gから2.2gの間が推奨されています。また、フォノ入力の負荷インピーダンスは30Ω以上であることが推奨されています。
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セットアップ
20X2Aのパフォーマンスを確かめるために、私は低出力モデルの20X2A-LをSorane SA1.2トーンアーム(Connected-Fidelity製)に取り付けました。今回は、Michell Gyro SEターンテーブル、PH-10フォノステージ(Gold Note製)とRI-101 IIインテグレーテッドアンプ(Vitus Audio製)、そしてフロア型スピーカーのOscar Trio(MARTEN製)にて試聴します。
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20X2A-LをSorane SA1.2(トーンアーム)に取り付けるのは非常に簡単でした。カートリッジのアジマスとVTA(垂直トラッキング角)は慎重に調整します。また、これはどのカートリッジでも同じですが、最適な針圧を見つけるための試行錯誤に時間がかかります。針圧の評価はメーカーが指定する範囲内で行いました。
今回のトーンアームとターンテーブルにおける最適な針圧は1.8gであると判断し、試聴中はずっとこの針圧を使用しました。一般的に、カートリッジは推奨される中で最も軽い針圧にした時に一番良い音を出すと感じています。ただし、システムやコンポーネントの違いや好みが異なる場合もあるため、自身で試してみることをお勧めします。
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Gold Note PH-10は、優れた性能の多機能なフォノステージです。それを+3dB(62dB)のゲイン設定と標準RIAAカーブに設定し、負荷インピーダンスを調整してみました。このフォノステージには、MC用の10、22、47、100、220、470Ωと、MM用の1k、22k、47kΩのオプションがあります。いくつかの曲で試した結果、今回は22Ωに設定するにしました。さまざまな楽器やボーカルにおいてクリアで透明感があり、また、47Ωや100Ωの設定よりもベースギターやシンセサイザーが引き締まり、安定していると感じたからです。
なお、評判の良いメーカーの同価格帯のMCカートリッジも用意し、これを2つ目のAudio-Technica製ヘッドシェルに装着して、音質評価のベンチマークとして使用しました。
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サウンド・クオリティ
まず、伝説的なギタリストLarry Carltonの「Hello Tomorrow」(アルバム「Discovery」に収録)という曲から聴き始めます。これは私が隅々までよく知っている曲で、彼はお得意のエレクトリックギターではなくアコースティックギターを演奏しています。20X2A-Lは、ダイナミクスとバランスの表現が私に合っているとすぐに感じました。アコースティックギターの音色は素晴らしく、一音一音の形と鳴りがしっかりと表現されています。キックドラムとベースは引き締まってパンチがあり、メロディアスです。この曲では、同価格帯のライバル機よりもリズミカルなエネルギーと勢いがあり、その表現力と繊細さに引き込まれていくのを感じました。
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女性ボーカルは音質を評価する際の重要なポイントです。今回はSarah Jaroszのアルバム「Build Me Up from Bones」のタイトル曲を選びました。これはCraft Recordingsからリリースされた素晴らしい録音のアルバムです。20X2A-Lは彼女のボーカルを非常に良く表現しています。開放感があり、表現豊かなディテールとニュアンスがしっかりと伝わってきました。一方、マンドリンは明瞭ですっきりとして、一音一音の形と鳴りがしっかりと見えてきます。ピチカートと弓で弾かれたバイオリンはいずれも繊細で、素晴らしい動きとリズミカルな流れで表現されました。さまざまな楽器はしっかりと分離され、定位がはっきりとして、音のバランスも良好でした。ここでも、音楽のディテール、ダイナミクス、そしてまとまりの点で20X2A-Lはライバル機を上回っていると感じました。
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George Bensonの曲の中でも特に好きなのは、アルバム「20/20」に収録されている「No One Emotion」です。この激しいテンポに合わせて足が自然に動かないなら、それは何かが間違っているのです。もっとも、この曲を20X2A-Lで再生すると、すぐに私の足はビートに合わせて動きました。シンセのベースラインには十分な重みがあり、曲を力強く引っ張っていきます。Bensonのボーカルはクリアで、非常に明瞭に表現されていました。キーボードにはリアルな存在感と輝きがあり、ベースラインは特徴的なうなり声を響かせます。ライバル機で聴いた時、このトラックは少し遅く感じられました。もちろん良い音ではありますが、20X2A-Lのような興奮と勢いは欠けていました。
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テンポは遅めですが、それでも非常に明確な意思を感じるビートの「Broad Daylight」(Ben Sidranのアルバム「The Doctor Is In」より)が次にジャイロプラッターで再生されました。20X2A-Lはベースギターのラインの重みと独特の「ウォーク」を見事に捉え、Sidranのボーカルは開放的で表現豊かに、また明瞭に再生されました。彼の素早いピアノの指さばきもよく伝わります。ライバル機では一つ一つの音が少しぼやけてしまうところがありました。また、ライバル機ではベースギターが少し軽めで、リズムが曲を推進する力が欠けていました。それでも良い音ではありましたが、私は20X2A-Lのニュアンスとダイナミクスの方が好きでした。
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結論
私にとって、どんなレビューにおいても最も重要なのは、テストした機器が音楽的に私に語りかけてくるか。そして、個々のミュージシャンのサウンドと、それらが一体となってまとまった全体像の本質を伝えているかどうかです。この基準で判断した際、20X2A-Lは期待を裏切りませんでした。
大切なのは、音楽的な誠実さと一貫性です。ミュージシャンが何を演奏していて、またそのパートがどのように全体と調和しているのかを聴き取ることができるかどうかです。ダイナベクター20X2A-Lは、この点において期待以上のパフォーマンスを発揮し、同価格帯の評判の良いライバル機を凌駕しています。このMCカートリッジを心からお勧めします。
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