MCカートリッジ XX-2A レビュー by Chris Frankland
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The Ear は、様々なオーディオ機器や音源を評価している英国の情報サイトです。以下訳文はThe Earの許可を受けて掲載しています。原文(英語)はThe Ear review of XX-2A (745KB)をご参照下さい。
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ダイナベクター XX-2A MCカートリッジ
ダイナベクターは、尊敬に値する高品質なMCカートリッジの製造で強い実績と評判を誇るアナログメーカーです。最新モデルのXX-2Aが登場したと聞いて、すぐにデモ機を確保するべく電話をかけました。
ダイナベクターは、東京大学工学博士、東京都立大学機械工学科元教授である富成襄博士によって1978年に創立されました。彼らが初めて高出力のMCカートリッジ「10X」を発表した時、大きな話題になったことを覚えています。このMCカートリッジは、アーマチュアに超微細なワイヤーを多く巻きつけるコイル構成により、MCカートリッジでありながらMM入力に直接接続できるという革新をもたらしました。それは非常に優れた製品でした。
また、ルビーとダイヤモンドで作られた宝石カンチレバーを採用したKaratシリーズ(低出力MCカートリッジ)にも大いに感銘を受けたことを覚えています。実際、私自身も80年代前半にかなり長い間Karat Diamondを使用していました。
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ダイナベクターは、カートリッジの磁気回路について継続的に開発し、改良し続けてきたメーカーです。この中で重要な要素となるのが、最初のXX1モデルで導入された「フラックスダンパー」と、「ソフト化マグネット」と呼ばれる技術です。フラックスダンパーの開発は、ダイナベクターが振動システム(可動部分)と磁気回路との間に干渉があることを発見したことがきっかけでした。わずかな磁束密度の変動によりエアギャップ内の磁力が変化し、相互変調歪みが増加することが判明したのです。フラックスダンパーは、フロントヨークにコイルを巻き付ける事により、カンチレバーとコイルの振動によって生じる磁束密度の乱れを制御します。
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ダイナベクターの「ソフト化マグネット」技術は、ネオジムやサマコバなどの高出力磁石によって引き起こされる磁束密度の変動を防ぐ事を目的としています。磁束密度の変動は音質に影響を与えます。ダイナベクターは、高い透磁率を持つ材料を磁石に取り付けることで、磁気抵抗と磁束密度の変動を抑制して音質の向上を図っています。
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ダイナベクターの最新モデルは、低出力MCカートリッジのXX-2Aです。このモデルは、XX-2 MkIIと並行して販売され、優れた磁気回路を追求するダイナベクター社の姿勢を新たなステージに進めるものとなっています。その要因となるのが、全く新しい特殊磁気焼鈍(アニール)技術です。XX-2Aは、この新しい技術を採用した初のカートリッジです。
ダイナベクターは、高い透磁率と優れた安定性を持つとされる純鉄を磁気回路に使用しています。しかし、純鉄を加工する際に原子レベルで結晶構造の歪が生じ、透磁率の低下を引き起こしてしまう事は避けられません。XX-2Aでは、加工後の純鉄に特殊なアニール処理をかけることで、歪んでしまった結晶構造を再生させ、透磁率と音質を劇的に改善しています。
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XX-2Aでは、MCカートリッジで一般的に使用される希土類磁石(サマリウムコバルトやネオジム)ではなく、アルニコ磁石を採用しています。アルニコ磁石は磁気抵抗が低いため磁力の変動を最小限に抑えられ、より高いS/N比と音の立ち上がりを実現するそうです。
興味深いのは、ギターメーカーのフェンダーも同様に磁束密度の変化を避け、アルニコピックアップを使い続けた事です。フェンダーと多くのプレイヤーがアルニコピックアップの音を好んだのです。同様に、LowtherやTannoyなどの伝統的なスピーカーメーカーも、音響特性に優れたアルニコを採用しています。
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MCカートリッジXX-2Aのその他の特徴としては、6mmのソリッドボロンカンチレバーとPFラインコンタクト針、そしてアルミニウム削り出しのボディが挙げられます。また、磁気回路を構成するフロントヨークとリアヨークを磁石と共にステンレスボルトで固定し、熟練技術者による締め付けトルクの調整を行っています。出力電圧は0.28mVで、推奨負荷インピーダンスは30Ω以上です。英国の代理店であるPear Audio Limitedは100Ωが良いと推奨しています。推奨針圧は、1.8gから2.2gです。
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XX-2Aの音質を評価するため、Pro-Ject Evo Premium(トーンアーム)とX8(ターンテーブル)に取り付け、Avid Accent(プリメインアンプ)とRussell K Red120 Se(スピーカー)の組み合わせで試聴しました。XX-2Aの取り付けは非常に簡単で、ボディにネジ穴があるため直接固定できます。ネジを落としてカーペットの中で探し回る必要はありません。もっとも、優良な小売店で購入すればそういった作業は店側がやってくれるはずです。
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サウンド・クオリティ
私はまず、Avidのフォノステージを調整してシステムに最適な負荷インピーダンスを探すことから始めました。最初に代理店が推奨する100Ωから試しましたが、音質は良好だったものの、ボーカルが少し後ろに下がって聞こえるように感じました。一方、30Ωの負荷に設定した場合はピアノの音がより開放的でダイナミックに感じ、ドラムやシンバルもシャープでパンチが効いており、ベースギターのラインはよりメロディアスに聞こえました。全体としては微妙な違いでしたが、私は最終的に30Ωの設定を選びました。最適な負荷インピーダンスは、システムやフォノステージ、トランスにより結果が異なる可能性があるため、実際に自分で試してみることをお勧めします。
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じっくりと聴き始める前に、私はまずいくつかの針圧を試してみました。いつもと同じく、推奨針圧の中で最小の1.8gに設定した音が一番好ましいと感じました。この針圧設定では、2gで聴くよりも開放的で、ボーカルはよりクリアに、ドラムとパーカッションはキレがありダイナミックで、ベースラインはより滑らかでメロディアスに感じられました。
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私のお気に入りのアルバムは、ジャズシンガー/ソングライター/ピアニストであるBen Sidranの「Bop City」です。このアルバムは素晴らしい録音で、音の良し悪しを判断するのに役立ちます。「It Didn't All Come True」という曲では、ベースギターラインのエネルギーを見事に再現し、そのエネルギーが曲をリードしていることにすぐに感銘を受けました。一方、ドラムとパーカッションは引き締まったすっきりとした音です。シンバルは繊細なディテールだけでなダイナミクスも優れており、スティックがシンバルを叩くエネルギーや繊細さがしっかりと伝わってきました。Sidranのボーカルは開放感があり表現力豊かで、ピアノは生き生きとして豊かな響きを持ちます。速いテンポで鍵盤の上を手が跳ぶように動く、流れるような音の一音一音をはっきりと味わうことができました。
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Bob Jamesと今は亡き偉大なサックス奏者David Sanbornによる 「Double Vision」も、驚くほど録音が素晴らしく、どんなシステムでも驚異的なベースラインが聴けるアルバムです。このダイナミックな録音でもXX-2Aは期待を裏切りませんでした。Marcus Millerのリズミカルなベースラインは重厚で引き締まり、メロディアスです。Bob Jamesのキーボードはミックスの中でうまくバランスが取れ、明瞭でした。
Sanbornはこのアルバムで本当に最高のパフォーマンスを披露しており、その力強さ、フレージングがXX-2Aによって見事に再現されました。一音一音を圧倒的なパワーで伝える一方で、耳障りな硬さやぎらつきはなく、その魅力がしっかりと感じられました。伝説のドラム奏者Steve Gaddも登場し、彼のダイナミックでガッツのある巧みなプレイがよく捉えられています。キックドラムの物理的な音圧も感じることができました。総じて、XX-2Aによる素晴らしいパフォーマンスが光る一枚です。
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もっとシンプルで完全にアコースティックな音源として、カナダのシンガーソングライターStephen Fearingの素晴らしい「The Secret of Climbing」(REGAレーベル)を聴いてみたくなりました。このアルバムはレガ創業者Roy Gandyのリビングルームにてマイク2本だけで録音され、録音後の加工は一切行われていません。そのため、Fearingのボーカルと彼のカスタムManzer Cowpokeギターの音色が美しく再現されています。私は彼のライブ演奏を小さな会場で何度も聴いたことがあり、彼の音とスタイルはよく知っています。
「Red Lights in the Rain」は録音に忠実で、Fearingのボーカルは期待通りの表現力です。彼の魅力的なフレージングと力強い声をしっかりと感じることができました。ギターの音も開放的で明瞭で、それぞれの音がどのように弾かれているか、また美しいギターの音色のふくよかさや共鳴までもがよく分かりました。XX-2Aは、Fearingが声を全開にしたりギターを大きく弾いた時のダイナミクスや力強さ、インパクトもしっかりと再現してくれました。
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私は昔からLinda Ronstadtのファンで、彼女のアルバムの中で一番好きなのは「Hasten Down the Wind」です。70年代の録音の多くは多少物足りなさを感じますが、このアルバムは素晴らしい出来です。「Lo Siento Mi Vida」では、XX-2Aは彼女の素晴らしいボーカルの感情、音域、官能性を見事に再現しました。彼女の声には息を呑むような力強さがあり、彼女が力強く歌う時にもその迫力に決して負けることはありませんでした。イントロのギターもきちんと分離しており、バックボーカルも同様に鮮明に表現されていました。ベースラインは引き締まっており、重みがあってしっかりと動きが感じられます。また、ミックスにより埋もれやすいペダルスティールギターの音も失うことなく再生し、しっかりと存在感を示していました。
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結論
ダイナベクターのXX-2Aは、ZZ TopからMiles Davisまで、私が試聴したすべての音楽で素晴らしいパフォーマンスを発揮しました。その音は分解能が高くダイナミックで魅力的であり、ミュージシャンがどのように演奏しているかまでハッキリと再現してくれるため、音楽に引き込まれます。ボーカルは自然で色づけがなく伸びやかで、感情豊かかつワイドレンジです。全体的に、XX-2Aの音はテンポが良く、メロディアスで、音楽のリズムの流れをしっかりと捉えられる軽快さがあります。足をリズムに合わせて自然に動かしてしまう感じです。XX-2Aは非常にコストパフォーマンスに優れた製品であり、この価格帯のカートリッジを探している方には、私は熱烈にお勧めします。
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