MCカートリッジ DRT XV-1 レビュー by Paul Messenger
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HiFi Plus 誌は英国、高級オーディオ向きの専門誌。詳しいEquipment Reviewと美しい写真が特徴。XV-1はここでも最高の評価を得た。以下訳文は筆者の許可を受けたものです。
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先月号でWell Tempered Referenceターン・テーブルとトーン・アームという、些か変わった組合わせのreviewの一部として、この素晴らしいカートリッジを短期間ながら使った結果を報告した。それ以来、約2ヶ月間このカートリッジを私の使い馴れたLinn LP12/Naim Armaggedon/AROの組み合わせで使ってきたが、いよいよXV-1についてreviewする時になった。 V型ヨークを持つDRT XV-1はDynavectorの最新・最高級製品である。低出力MC、2500ポンドというものだ。DRTという名は多分、この30年近くに亘りDynavectorを経営してきたボスDr. Tominariにちなんだものであろう。
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このカートリッジの主な特徴は、近頃では珍しいアルニコ・マグネットを使っていることだ。アルニコは極東方面のオーディオ・ファンに高評価されており、アルミニウム、ニッケル、コバルトからなる合金で永久磁石としては初期のものである。 アルニコとそれ以外のマグネットを比べると、アルニコが音を良くするという説には長年疑いを持っていたが、私自身このことをスピーカーについて経験している。
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それは次の2つのスピーカーについてである。1つは時々使うことのあるSpendor BC-1ともう1つはTannoy Westminster Royal driverでいずれもアルニコ・マグネットを使っている。この2つは中音域の癖の無さは見事なもので、他のフェライト系スピーカーの及ぶ所ではない。これと同じことがDynavector XV-1にも言えるのだろうか。
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勿論昔はアルニコはごく普通のマグネットであったが、強さの割に重くて大きいため近頃のカートリッジでは使われなくなった。そのためXV-1の出力はやや控え目の0.3mV/1KHzで、重さは12.5グラムと平均以上である。
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外見の姿はハンサムで、精密加工されたV型であり、8ヶのアルニコ・マグネットが内蔵されている。これを赤い透明プラスティックで固定し、磁気ギャップを作っている。マグネット/ヨーク/コイルの構造は非常に複雑で一言では言えない。しかし製造番号No.51001はこれらが美しくまとめられている。
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針圧は1.8~2.0gと普通、スタイラスもごく普通のもので最先端という程のものではない。ここで注意しなければならないのは、同じダイナベクター製のTe Kaitoraカートリッジに比べると少しは安全とはいえ、ボロン・カンチ・レバーがカバー無しでいきなり突き出ているので、不注意に引っ掛けて折ってしまう恐れのあることだ。次に注意すべき点は、カートリッジ取り付けネジ孔が目暗で貫通していないことだ(私の好みにあらず)。一度セットするとアラインメント調整は簡単。ただ、取り付けネジ孔とスタイラスの間隔が普通より少し長い。しばらく使っている内に露出したカンチ・レバーはゴミの付着が見易いし、取り易いので気に入ってきた。テスト・レコードを何回も使う者にとっては有り難い。
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XV-1のF特は最も厳しい最高オクターブまで申し分なく、スムーズかつニュートラルである。
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XV-1のコンプライアンスは10cuとかなり小さいが、平均的な質量を持つAROアームの場合、共振周波数は7~8Hzと低い。これはカートリッジの大きな質量のせいによるものだ。この共振周波数でのダンピングは軽めであるが、Well Temperedのようなダンピングの効いたアームには適当なものである。
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ダイナベクターはXV-1用にヘッド・アンプPHA-100を薦めている。これは電流増幅型のアンプで、多分ダンピング向上を考えているのだろう。このヘッド・アンプは出力をMM並に増幅するので、MM端子に入力すればよい。しかし、残念ながらPHA-100が間に合わなかったので、またの機会に報告しよう。
サウンド・クオリティ
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音を実際聴く前に私が持っている最も厳しいレコードでトラック・アビリティーをテストしたが、その低いコンプライアンスにも拘わらず、XV-1は何の問題もなくトラックしたことを申し上げる。普通ターン・テーブル、トーン・アーム、カートリッジの順で音が決まると考えられているようだが、XV-1はこの考えを引っ繰り返しにしてしまう。
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まずWell TemperedプレーヤーでXV-1を聴いてみたが、その中音域の透明感、デリカシーには引っ繰り返る程驚いた。現在、いつものようにLinn/AROとのコンビで使っているが、またもそのたまげる程の中音域の豪華さ、更に超高域・超低域の素直さに感じ入ってしまった。ターン・テーブルとトーン・アームの組み合わせには大きな差があるものだが、XV-1はそれ以上に支配的である。
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XV-1は他のカートリッジとは懸け離れてユニークであり、全く魅力的である。私はLinn Aktiv Bも使っているが、周波数特性ではXV-1と何ら変わらないに拘わらず、両者の音の間には根本的な違いがあるのは殆ど信じ難いことである。Aktivは殆ど全能にしてドラマティックであるが(Clearaudio Discoveryとも違うが)、一度びDynavectorに変えると全ての状況の変化はドラマティックでさえある。ドラムのパーカッションはやや控え目だとすぐ分かるが、そのかわりデリカシー、精細さ、中音域の甘美な瑞々しさが豊かに再生され、心が洗われるはずだ。中音域はギラギラしたうるささは全く無く、各楽器が如何に音楽を構成させているかも、極めて自然に再生する。前にも述べたようにアルニコ・スピーカーの場合とよく似ている。
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最も難しいテストは人間の声であるが、XV-1はまさにスターといってよい。温かく、コヒーレントにして透明であり、色付けの無さにおいても最近試聴したカートリッジ群の中で遥かに優れたものであった。ブラスはもう1つの厳しいテストであるが、XV-1はここでも悠々とパスした。臨場感豊かなソースにおけるその優美で全く刺激の無い音は、ついつい音量をいつもより上げてしまうのだ。そしてしまいには、その正確な分解能や全く混乱しない弦楽、コーラス等が原因でクラシック・オーケストラもセッセと聴いてしまう。抑制の効いたボトム・エンド、トップ・エンドはAktivの堂々とした豪華さや、Discoveryのトップ・エンドの華やかさとは違うものである。Dynavectorのサウンド・ステージの大きさは、これらに比べるとスケールが小さい。しかし、これが重要かというと私には正直いって何も言えない。トップ・エンドは天井知らずだが、意外にノイズは問題にならない。ボトム・エンドの重量感は十分であるが、最近の人工的なレコードではややドライブ感に欠ける。XV-1によるGotterdammerungは凄い。Exit Planet Dustはそれにやや劣る。
結論
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結論をいえば、Dynavectorの過去回帰型XV-1は明らかに大成功といえる。その特別な再生音の強弱感は私の好みに反することもあり、私として細かいことでも妥協はしない。しかし、その実在感と自然なmusicalityには惚れ惚れとする。トーン・アームのダンピングによってもっと良くなるだろうが、現在私のAROでも全く問題は無い。XV-1の音はカサカサと固いトランジスター型の音と反対に、優れて優しく真空管アンプに非常に似ている。すでに熱電子アンプの愛好家が、XV-1の齎す結果をどう評価するかは、私には分からない。最近のステレオ・タイプな製品と非常に異なる結果を齎すXV-1は、異端として受け止められるであろうが、その使い易さと素晴らしさは私にとって手放せないものである。これはタダモノではない。
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